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奈良地方裁判所 平成4年(行ウ)9号 判決 1995年12月20日

原告

池澤由春

中田源郎

中田敦子

前田孝夫

松本賢造

松本恭子

松本ムメ子

右原告ら訴訟代理人弁護士

中北龍太郎

被告

奈良市

右代表者市長

大川靖則

右訴訟代理人弁護士

辻中栄世

主文

一  被告が原告池澤由春に対して平成三年一〇月一九日付けでした仮換地指定のうち、奈良市菅原町一〇一番、一一五番二、一一九番四、一七五番及び二一五番二の各土地に対する部分を取り消す。

二  被告が原告中田源郎に対して平成三年一〇月一九日付けでした仮換地指定のうち、奈良市菅原町四八番の土地に対する部分を取り消す。

三  被告が原告前田孝夫に対して平成三年一〇月一九日付けでした仮換地指定を取り消す。

四  被告が原告松本ムメ子に対して平成三年一一月二五日付けでした仮換地指定のうち、奈良市横領町三二九番の土地に対する部分を取り消す。

五  原告池澤由春、原告中田源郎および原告松本ムメ子のその余の請求並びに原告中田敦子、原告松本賢造及び原告松本恭子の請求をいずれも棄却する。

六  訴訟費用は、原告池澤由春と被告との間においてはこれを五分し、その一を原告池澤由春の負担とし、その余を被告の負担とし、原告中田源郎と被告との間においてはこれを五分し、その四を原告中田源郎の負担とし、その余を被告の負担とし、原告松本ムメ子と被告との間においてはこれを五分し、その一を原告松本ムメ子の負担とし、その余を被告の負担とし、原告中田敦子、原告松本賢造及び原告松本恭子と被告との間においては全部原告中田敦子、原告松本賢造及び原告松本恭子の負担とし、原告前田孝夫と被告との間においては全部被告の負担とする。

事実及び理由

第一  請求の趣旨

被告が原告らに対してした別表1「一覧表」記載の仮換地指定処分をいずれも取り消す。

第二  事案の概要

【争いのない事実】

一  当事者

被告は、大和都市計画事業(奈良国際文化観光都市建設事業)近鉄西大寺駅南土地区画整理事業(以下「本件事業」という)の施行者であり、原告らは、本件事業の施行区域内の別表1「一覧表」の「従前の宅地」欄記載の土地を所有している。

二  本件事業の概要

1 目的

都市計画道路をはじめとする街路・公園・その他の公共施設の整備改善、並びに宅地の利用増進を図り、健全な市街地を造成する。

2 施行地区

近鉄西大寺駅南側で、北は近鉄奈良線、東は既成市街地、南は主要地方道奈良生駒線(阪奈道路)、西は市道を境界とする東西約五〇〇メートル、南北約一二〇〇メートルの地区である。

3 本件地区内の土地の現況

地区北辺から約三〇〇メートルを東西に走る西大寺南都市下水路の北側では商業施設、マンション等の共同住宅、小規模な独立住宅等が混在し、南側ではその大部分が農地として利用されているが、一部市道沿いなどに住宅地が点在している。本件地区の北部の近鉄西大寺駅に近接した地域では商業・業務施設やマンション等の高層建築物が一部に見られるが、その他の地域においては低層住宅のみである。本件地区内の世帯数は約三五〇世帯で、人口約九四〇人、人口密度一ヘクタール当たり三一人である。本件地区の北辺に沿って近鉄西大寺駅があり、南辺に沿って主要地方道奈良生駒線(阪奈道路)があるが、地区内にはこれらの施設と地域を結び付ける役割を果たし得るものは現在のところ全くなく、地区内は幅員の狭小な市道、里道、私道等による交通網が形成されている。

地区内の用途地域指定は、商業地域(容積率四〇〇パーセント、建ぺい率八〇パーセント)、第一種住宅専用地域(容積率六〇パーセント、建ぺい率四〇パーセント)、住居地域(容積率二〇〇パーセント、建ぺい率六〇パーセント)である。

4 設計方針

西大寺南都市下水路以北の全域及び都市計画道路二条谷田線以北で、都市計画道路西大寺阪奈線沿いの部分については商業系、その他の地域では住宅系として計画を行う。

本件施行地区内に都市計画道路大宮通線、西大寺阪奈線、二条谷田線及び西大寺阪奈線に附属して駅前広場(面積五七〇〇平方メートル)を計画し、幹線道路網を構成する。右幹線道路を軸に幅員八ないし四メートル幅の区画街路を段階的に配置し、これらを補完するものとして歩行者専用道路を適宜配置する。公園は児童公園を六箇所配置する。人口計画は施行面積約三〇ヘクタールに対して、人口密度一ヘクタール当たり一〇〇人、計画人口三〇一〇人を予定する。

整理施行前後の土地の種目別面積は別表2「土地の種目別施行前後対照表」のとおりであり、平均減歩率は別表3の減歩率集計表記載のとおりである。

なお、現況と整理後の概要は別紙図面のとおりである。

三  本件各仮換地指定

被告は原告らに対し、別表1「一覧表」記載のとおりの仮換地指定をした。原告池澤由春は、平成三年一二月一六日付けで、原告中田源郎、同中田敦子及び同前田孝夫は、同月一七日付けで、原告松本賢造、同松本恭子及び同松本ムメ子は、平成四年一月八日付けで、それぞれ本件各仮換地指定を不服として、奈良県知事に対し審査請求をしたが、原告池澤に対しては平成五年九月二七日付けで、その余の原告らに対しては平成六年一月二八日付けでいずれも棄却の裁決がされた。(乙一四の1ないし7)

各原告についての仮換地設計書及び従前の宅地と換地との位置、面積等は別紙1の(1)、(2)、2の(1)ないし(3)、3の(1)、(2)、4の(1)、(2)、5の(1)ないし(4)記載のとおりである。

【争点】

一  本件事業における農地の取扱いの違法性

(原告らの主張)

本件施行地区における農地の割合は、約60.28パーセントを占めており、特に地区南部では水田が大部分で、自然環境に恵まれている。したがって、都市計画における生産緑地との健全な調和が重要であるにもかかわらず、本件事業は、道路整備の敷地確保や宅地化の促進、保留地の設定等のため、農住共存の理念を無視して農地の面積を大幅に無償で削減しようとの企図を優先し、換地設計において、土地の価額に重点を置く比例評価式換地設計法を採用した上、農地の集合化等による環境保全に何ら配慮していない。

なお、原告池澤由春、同中田源郎、同中田敦子及び同前田孝夫は、その従前の宅地をいずれも農地として利用し、かつ、生産緑地法による生産緑地地区の指定を受けている。

(被告の主張)

本件地区においては、人口の増加に伴い無秩序な宅地開発が進行中であるところ、これを放置すると都市環境の悪化が明白であることから、本件事業により健全な市街地を造成することにしたものである。そして、被告は、農業を継続しようとする権利者には、そのまま農地を残すべく配慮している。ただし、農地についてのみ減歩率を緩和することは、公平の原則から許されないから、営農規模が縮小されるのは止むを得ない。農住共存の精神については評価すべきものがあるとしても、本件事業には適用することができないか、本件事業になじまないものである。生産緑地に関しては、本件事業計画決定後三年以上経過してから生産緑地法が改正され、これに基づいて原告池澤由春らが生産緑地の申請をしたのは、本件仮換地指定処分とほぼ同時期であって、その意向を本件処分に反映させることは不可能であり、いたずらに農地の保全のみを強調することは正当ではなく、本件においては可能な限り宅地と農地との調和が図られている。

二  照応の原則違反

(被告の主張)

本件各仮換地指定は、土地評価、位置、減歩率、土質、水利、環境等の面から、照応の原則を満たしている。

(原告らの主張)

本件各仮換地指定は、土地評価、位置、減歩率、土質、水利、環境等の面から、照応の原則に適合していない。さらに、原告中田敦子の奈良市菅原町一七七番の土地に関しては、恣意的な区域設定がされた結果、同原告は不利益を被っており、また、原告松本ムメ子の奈良市横領町三二九番の土地に関しては、不合理な区域設定がされた結果、同原告とその北及び南側の土地の所有者との間に不公平がある。

三  憲法二九条、二五条違反

(原告らの主張)

本件各仮換地指定は、減歩や飛換地による土地の利用価値の減少を補償しないもので、前記のとおり照応の原則に違反し、しかも、本件事業は農地に対して著しく偏頗な犠牲を強いるものであるから、原告らの財産権を侵害し、その生存権も侵害するものとして、憲法二九条、二五条に違反する。

第三  争点に対する判断

一  本件事業における農地の取扱いについて

1  生産緑地地区の指定と土地区画整理事業について

原告らのうち池澤由春、中田源郎、中田敦子及び前田孝夫は、生産緑地地区の指定を受けていることが認められる(甲八、一六、乙三一、原告中田源郎、同前田孝夫)。

ところで、生産緑地地区の指定は、土地区画整理事業実施中であっても、また、事業が予定されている地域であっても、事業実施上支障がない限り、面積要件を満たしてさえいれば、原則として指定を行うことができるのであって、生産緑地地区の指定は土地区画整理事業の施行を妨げるものではなく、生産緑地地区を含めた土地の区域について土地区画整理事業を施行することは可能である。したがって、本件事業が生産緑地の点について考慮していないからといって直ちに違法ということはできない。

ただし、生産緑地地区の指定を受ければ、土地利用が制限されることとなる(生産緑地法八条、九条)ほか、土地区画整理事業による換地処分を行うことにより、農地等の位置を変更した場合には、生産緑地に関する土地計画を変更せざるを得ない。また、減歩により、面積要件を欠くことになった場合には生産緑地地区を廃止することとなり、土地の所有者に権利義務の変動をもたらすことになるから、土地区画整理事業区域内に生産緑地地区の指定がある場合又は生産緑地地区の指定が予定される場合には、施行者としてはその点を配慮して換地及び仮換地指定を行うべきであり、この点は、照応の原則に適合しているか否かを判断する際において考慮すべき要素となる。

被告は、生産緑地法の改正の時期や原告池澤由春らの生産緑地の申請と本件各仮換地指定がほぼ同時期であり、本件各仮換地指定においてこの点を考慮することはできなかったと主張する。なるほど、本件事業計画が決定されたのは昭和六三年七月一八日、平成三年法律第三九条による改正後の生産緑地法が施行されたのは平成三年九月一〇日であり、また、生産緑地の都市計画決定がされたのは平成四年一二月二五日であることが認められる。しかし、昭和四八年以来、市街化区域内農地の緑地機能等に相応の配慮をすることが望まれていることが認められるところ、前記改正後の生産緑地法は、平成三年四月二六日に公布されており、本件仮換地指定を行うときには、施行者としてはいかなる者が生産緑地地区の指定を受けるべき意向を有しているかの調査は可能であり、この点を全く配慮しなくても良いということはできない。

(甲二九ないし三一、乙二三ないし二六)

2  農地の取扱いについて

原告らは、本件施行地区の約60.28パーセントが農地であるのに、被告は、土地の価額に重点を置く比例評価式換地設計法を採用し、本件事業計画には、生産緑地との健全な調和すなわち農地の集合化等による環境保全に何ら配慮していない、と主張するのでこの点について検討する。

(一)  仮換地設計をいかなる基準に基づいて行うかは施行者の合理的な裁量に委ねられているところ、仮換地指定をする場合、仮換地及び従前地のそれぞれの価格(もっとも、土地区画整理後の価格は事柄の性質上、事後的な予測である)は重要な要素となるから、従前地と仮換地との土地評価を基準とする比例評価式換地設計法は、それなりの合理性を有するものであって、被告が右方式によって仮換地指定をしたことを直ちに違法とすることはできないし、一般的には、従前地の所有者の利用方法に関する意思に反した仮換地の指定を、この点のみを理由に違法とすることはできないと考えられる。

(二)  しかしながら、土地区画整理法(以下「法」という)九八条二項、八九条一項が、「仮換地をする場合、仮換地及び従前地の宅地の位置、地積、土質、水利、利用状況、環境等が照応するように定めなければならない」としていることに照らせば、経済的な価値が照応してさえいれば地積、形状等を無視しても良いということにはならない。ことに、本件事業のように、水田を中心とした農地が施行区域の約六〇パーセントを占めているような土地利用状況の下では、農地としての利用を継続する意思のある所有者の従前地につき、農地としての利用に著しい支障を来すような減歩率の仮換地指定をすることには問題があるというほかはない。

すなわち、従前地を農地として使用収益し、かつ、これを継続しようとしている地権者にとって重要なのは、土地の交換価格ではなく、その使用価値であると考えられるところ、土地区画整理事業を施行するに当たり、仮換地が幹線道路に面しているからなどといった理由で、その交換価値のみに目を向ければ、大幅な減歩が必至となり、単なる営農規模の縮小に止まらない営農形態の変更や営農の廃止に至ることが考えられる。しかも、前記のように、地権者が生産緑地地区の指定(生産緑地法三条)を受けた場合には、農地以外の利用が制限され、従前の土地利用形態を維持することが重大な問題となる(生産緑地法八条、九条)。したがって、このような場合には、地権者が仮換地に同意した場合を除き、宅地の価格のみを仮換地指定の基準とすることはできないというべきであり、従前地と仮換地の地積、形状、利用状況等をも十分に考慮すべきであって、減歩率の割合が高い場合には、区画整理による仮換地に特別の便益が認められることが必要である。

減歩率について、建設省作成の「土地区画整理設計標準」(乙八、昭和八年七月二〇日、発都第一五号各地方長官・各都市計画地方委員会長あて内務次官通達、昭和四一年三月三一日建設省発書第一二七号改正)第二の一イが「道路、水路、小公園及小学校ノ敷地ニ依ル民有地ノ減歩率ハ二五『パーセント』以内ヲ以テ目途トスルコト従テ民有地ノ減歩率ヲ過大ナラシムル事情アルモノニ付テハ特ニ設計ノ細部ニ付考慮スルコト」としているのも、右の趣旨を含むと解されるし、本件換地設計基準(乙九)において、土地利用の継続のために特に必要があると認められる画地については、その利用状況等を勘案して整理後の画地の地積を定めるものとしていること(第八条2)も右の趣旨を示すものと解される。

3  本件事業の規模は相当に大きく、付近の環境も一変することが予想されるから、農業を継続しようとしている地権者については、その意向を調査した上、位置につき照応の程度が低いにしてもその仮換地を集合させることなどが可能であったと考えられる。本件事業においても、当初は農地の集合化が予定されていた(甲三)が、被告は、地権者の意向を充分に調査せず、一部の地権者がこれに反対していることを理由に右の予定を平成二年以前に撤回しているし、水路確保の方法についても現在調査中であるとするに止まっている(証人西村啓司)。そして、被告において、本件事業の施行地区内の農地につき、正当な配慮をした形跡はなく、正当な配慮をしなかったことについての合理的な理由があったと認めるべき証拠はない。

以上のとおり、本件事業について、その施行地区内の農地につき正当な配慮がなされたとは認められないけれども、本件事業の目的は正当と認められるから、右の点で直ちに本件事業全体が違法になるものとは未だ考えることはできない。

結局、農地の取扱いについて被告が充分な配慮を怠った点の違法は、個々の仮換地指定についての違法に止まり、後記に認定・判断するとおり、本件各仮換地指定が照応の原則に違反するか否かの点で斟酌されることになる。

二  照応の原則について

1 法九八条二項、八九条一項の「照応する」とは、従前地と仮換地とが、通常人がみて大体同一条件にあると認められるものでなければならないこと(いわゆる縦の照応)、同一事業の施行地区内における他の権利者との公平が保たれていること(いわゆる横の照応)をいうと解される。

2  前記一の観点に基づいて、本件仮換地指定について検討する。

(一) 原告池澤由春に対する仮換地指定について

(1)  奈良市菅原町一一五番二、一一九番四、一七五番、二一五番二の田(以下、単に地番のみを示す)に対する仮換地指定の減歩率はいずれも四〇パーセントを超えており、かなりの負担を権利者にかけることとなっている。しかも、右仮換地指定で一一五番の二は不整形な土地に仮換地指定されていること、一一九番四も一団の土地から二画地に分割仮換地指定されていることを考慮すると、仮換地指定に特別の便益があるとはいえない。

また、一〇一番の宅地(宅地の場合も、地権者がこれを使用収益しているときは、高い減歩率に応じて仮換地に特別の便益が必要である)も減歩率が四三パーセントと高く、原告池澤由春にかなりの負担を強いることとなる上、仮換地指定された土地は不整形で特別の便益があるとは認められない。

したがって、右各土地についての仮換地指定は照応の原則に適合するとは認められない。

(2) 一二六番に対する仮換地指定は減歩率が約二一パーセントでそれほど高いとはいえず、土地も整形地に仮換地指定されており、必ずしもその土地で農業を継続することができないとはいえないから、この土地に対する仮換地指定については照応の原則を満たすというべきである。

(二) 原告中田源郎に対する仮換地指定について

(1) 四八番に対する仮換地指定について

右仮換地指定は減歩率が約四二パーセントであり、原告中田源郎にかなりの負担を強いることとなる上、右仮換地により四八番の土地と四九番一及び二、五〇番の一団の土地とが分割されることになることを考えると、原告中田源郎に対して相当不利益になる反面、特別の便益を与えるものとはいえない。

したがって、右仮換地指定は照応の原則に違反する。

(2) 四九番一及び二、五〇番に対する仮換地指定について

右仮換地指定の減歩率は約一九パーセントであり、必ずしも原告中田源郎にかなりの負担を強いるとはいえず、仮換地は不整形であるが、従前地も不整形であることからすると、この点でも照応しないとはいえない。

したがって、右仮換地指定は照応の原則に適合し、適法である。

(3) 二〇九番四、二一二番及び二一三番一に対する各仮換地指定について

右各仮換地の減歩率は約一二パーセントであり、二一二番及び二一三番一については不整形地から整形地に仮換地指定がされており、二〇九番四については細長く仮換地指定がされているが、二一二番及び二一三番一の仮換地指定と一団の土地に仮換地指定されているため、便益の上で支障を生ずるとは認められない。

したがって、右各仮換地指定は照応の原則を満たす。

(三) 原告中田敦子に対する仮換地指定について

(1) 一七七番に対する仮換地指定について

右仮換地指定の減歩率は約一一パーセントであり、位置、形状もほぼ従前地と同じである。ところで、右従前地は施行地区内にあるものの、その回りの土地が施行地区から外された結果、右仮換地は本件土地区画整理の地区外に面し、不自然さは否めない(甲三)。しかし、いかなる地区を土地区画整理事業の施行地区に編入するか否かの点は施行者の合理的な裁量に委ねられているところ、施行地区に恣意的に編入された結果、その仮換地指定により相当な不利益を被る場合はともかく、施行地区への編入如何は直ちに仮換地指定の違法事由と結びつくものではない。

そこで、これを本件についてみるに、乙二、乙五の1の地図からすると、本来一七七番の北側の土地も本件土地区画整理事業の施行地区に編入すべきであったともいえるが、本件事業により一七七番の周辺の道路が拡張整備され、右土地が本件事業の利益を受けることが認められるほか、減歩率も一一パーセント程度であり、位置、形状等が特別不利益になったとも認められないことを考慮すると、一七七番が施行地区に編入されたことをもって違法ということはできないし、右の減歩率程度の負担はやむを得ないというべきである。

(2) 二六九番ないし二七二番に対する仮換地指定について

右仮換地指定は減歩率が約八パーセントで、不整形な二団の土地が整形な一団の土地に仮換地指定されており、照応の原則を満たす。

(3) 二一一番一に対する仮換地指定について

右仮換地指定は減歩率が約一〇パーセントであり、三つに分割仮換地指定がされているとはいえ、二画については右(1)及び(2)の仮換地と一団の土地として仮換地指定がされており、不利益を与えるとは考えられない。したがって、右仮換地指定は適法である。

(四) 原告前田孝夫に対する仮換地指定について

一三番及び一四番に対する各仮換地指定は減歩率が五八パーセントと極めて高く、また、二八七番一及び二八八番一に対する仮換地指定の減歩率も約三九パーセントと高いため、原告前田孝夫にかなりの負担を強いることとなる上、従前地も整形地であったこと、位置についても利便が増したとはいえないことを考慮すると、右各仮換地指定は照応の原則を満たさない。

(五) 原告松本ムメ子、同松本賢造及び同松本恭子に対する仮換地指定について

(1) 原告松本ムメ子所有の横領町三二九番に対する仮換地指定について

右仮換地の減歩率は約二三パーセントであり、原告松本ムメ子に対する負担は必ずしも軽いとはいえない。

そして、乙二、乙七の1、七の2の(3)、七の3からすると、右土地の東側及び西側においては、右土地の南側にある道路が施行地区との境界となっている(法施行規則八条一号)のに右道路より北側にある右土地と横領町三三二番地の一のみが施行地区に編入されて北側に突出しているのは、施行地区の指定が恣意的であるといわざるを得ず、また、右土地が減歩された原因は、道路を拡張し、一四街区2に仮換地指定する保留地を生み出すためであると考えられるから、原告松本ムメ子に対してのみ特別の負担を強いる結果となっていると認められる。

したがって、右仮換地指定は照応の原則に違反し、違法というべきである。

(2) 原告松本ムメ子所有の二二七二番四、同松本賢造所有の二四〇六番一、同松本恭子所有の二四〇七番二及び二四〇八番五に対する各仮換地指定について

二二七二番四に対する仮換地指定の減歩率が約二〇パーセント、二四〇六番一の減歩率は約四パーセント、二四〇七番二及び二四〇八番五のそれは約5.19パーセントで、平均減歩率は約一二パーセントであり、必ずしも減歩率が高くなく、また、形状も一部台形で不整形な土地となるが、四筆二団の土地が一団の土地に仮換地指定されているため、利便が損なわれるとはいえない。

そして、仮換地の場所が原位置からかなり離れており、幹線道路に面していないと認められるものの、従前地は島地と幅員約二メートルの袋小路にのみ接道した土地であったのが幅員約六メートルの道路に接続することとなって利便が増進されるから、照応の原則上問題が生ずることはない。

したがって、右各仮換地指定は照応の原則に適合する。

(なお、右各土地は一団の土地に仮換地指定されているところ、本来、権利者が別人格である以上、個々の仮換地指定が照応の原則を満たすか否かの観点から判断すべきところであるが、原告松本ら三名は右四筆に対する仮換地指定を一括してその違法を問題にしているから、照応の原則に適合するか否かについても一括して判断することとした。)

3  原告らは、他の権利者が特別優遇されていることを理由として、横の照応原則に違反すると主張する。しかし、一部のものが著しく利益を受けたことを認めるに足りる証拠は見当たらないから、原告らの右主張は採用しない。

三  憲法違反の点について

原告らは本件各仮換地指定が憲法に違反すると主張する。しかし、前認定の本件事業の目的に照らせば、本件事業は、その施行地区内の宅地全体の利用価値の増進を図るためのものということができ、これが憲法二九条、二五条の各規定に違反するものということはできない。そして、法に、仮換地をする場合には、仮換地及び従前地の宅地の位置、地積、土質水利、利用状況、環境等が照応するように定めなければならない旨の規定(法九八条二項、八九条一項)が置かれていることからすると、本件各仮換地指定においては、これが照応の原則に適合するか否かの問題が起こるに過ぎず、これが適合しているとすれば、憲法のいずれの規定にも反するものではない。

第四  結論

以上の次第で、原告らの請求のうち、原告池澤由春に対する奈良市菅原町一〇一番、一一五番二、一一九番四、一七五番及び二一五番二に対する各仮換地指定、原告中田源郎に対する同町四八番に対する仮換地指定、原告前田孝夫に対する各仮換地指定、原告松本ムメ子に対する横領町三二九番に対する仮換地指定をいずれも取り消し、原告池澤由春、原告中田源郎及び原告松本ムメ子のその余の請求と原告中田敦子、原告松本恭子、原告松本賢造の請求をいずれも棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民訴法八九条、九二条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官前川鉄郎 裁判官井上哲男 裁判官近田正晴)

別紙<省略>

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